第 I 章−8 「文化看護学会」への参加
沖縄における地域文化的看護体験にみる文化看護学の研究課題
○神里みどり1)、當山冨士子1)、野口美和子1)
1)沖縄県立看護大学
【目的】沖縄県における看護職者が認識した地域文化的看護体験から得られたデータを通して、文化看護学の研究課題について検討する。
【方法】大学院博士前期課程の開講科目である「地域文化看護論」を受講した5名が、自らの看護体験及びその友人17名の看護職から聞き取った看護体験を記述したものをデータとして収集した。その記述データを「看護活動」「看護職者の専門的判断」「患者・利用者の理解」に分けて内容分析を行い、各体験内容から研究課題を検討した。倫理的配慮として、受講生より看護体験の記述データの活用について同意を得、体験者の匿名性の保持について配慮した。
【結果】47の看護体験から検討した主なる研究課題について以下に示す。
「看護活動」では、魔除けを大事にしたベッド内の環境整備や精神的支援、悪しき風習に対する地域での集団患者教育、シャーマン絡みなどの治療拒否患者・家族に対する支援、暗黙の了解による胎盤の持ち帰りの許可、戦争による集団自決にまつわる住民の保健事業の非参加の容認などがあった。これらの看護活動は、普遍的なマニュアルや取り決めがあるなかで行われているものではなく、暗黙の了解や黙認、支持などその場の状況における、個々の看護師の対応レベルにとどまっていることが多かった。特に、地域文化的な要因からくる治療拒否患者や家族の対応が困難であり、早期における治療遅延が及ぼす患者・家族への影響が大きいことから、これらの地域文化的要因に焦点をあてた看護活動の開発が必要である。
「看護職者の判断」では、身体に危害を及ぼす剃刀による瀉血(ブーブー)などの民間療法など医学的な危険性が生じる場合の判断や精神的安寧のための魔除け活用の判断、重症患者による治療拒否から生じてくる倫理的判断能力の必要性など看護師として多面的な視点からの専門的判断能力の向上を目指した研究課題などが挙げられる。
「患者・利用者の理解」で述べられた利用者の行動は、患者、重病者、乳幼児に対して、はさみなどの刃物を近くに保持することで、病気の悪化や早期回復、健康保持を願っていた。また、沖縄独自のシャーマン(ユタ)に対する拝みやお告げによる絶対的服従のために受診行動が遅延していた。特に、心身に害が及ぶ場合、古い風習や慣習、迷信などがどのように個々人の健康や生活に影響を与え、意味付けがなされているのか、患者の地域文化的行動パターンに注目した研究課題を提示していくことが重要である。
【考察】地域文化的背景は、時代の流れにそって、対象者が生きているライフスパンの中でたゆみなく変化し続けるものであり、その変化の中での個人的要因、関係性からくる要因、環境的要因などを明らかにしながら、看護活動と文化のかかわりを探求し、特に個人の多様性と慣習を尊重しながら利用者理解を深め、地域文化に根ざした看護活動の豊かな開発が必要である。